テラデイン

「花のアントはね、……およそこの世で最も花らしくないもの、それをこそ挙げるべきだ」
「だから、その、……待てよ、なあんだ、女か」

死ぬことと見つけたり」を読んでる最中、「人間失格」にこういう会話があることをぼんやり思い出し、検索してみた。ガキのころ読んだときはなんという機知かと感嘆し、頭のよさとはこういうことかとあこがれた。しかし今になってみると、花の対義語に女を持ってくるセンスには禁忌を犯しているような、なんかとてつもなくヤバいことをしているような恐怖を感じる。あいまいだが、こういうことを遊び半分で言ってしまう脳みその鋭さは、肝心な場面にいる未来の自分を最低な形で戯画化することに容赦はしないだろう。しかもその恐ろしさを作者が自覚していないとこういう書き方はしないよな。ブラックジョークに見せかけた自爆テロというわけで、魅力的でしかも救いようがない。地獄に落ちるとはこういうことかと思う。




(たとえばドラクエ的なRPGで勇者だけに使える「テラデイン」という、最大HPを下げる代わりにギガデインの数倍の威力を与える呪文があったとする。普通のゲーマーならこの取引が不公平であると感じて使用をためらうだろう。そして目の前で小学3年生くらいの子供がよくわからずにバブルスライムにテラデインを連発している光景を見たら、「ちょっと待て」と叫びたくなるような本能的な恐怖を覚えるだろう。)